野球肘 後方型
小児の野球肘(後方型)の病態とリハビリ治療について(約1000文字)
⸻
野球肘は、成長期の子どもが投球を繰り返すことで肘に負担がかかり、骨や軟部組織に障害が生じるスポーツ障害です。内側型・外側型・後方型の3つに分類されますが、後方型野球肘は、小児期に投球フォームの問題や過度の投球量がある場合に発生しやすいタイプです。見落とされがちですが、進行すると投球障害が長期化することもあるため、正しい理解と対応が求められます。
⸻
【病態】
後方型野球肘は、投球動作における**フォロースルー(投げ終わり)のタイミングで、肘関節後方に衝突(インピンジメント)**が起こることにより生じます。具体的には、投球の勢いで肘が強く伸びる際に、肘頭(ちゅうとう)と上腕骨遠位端が繰り返しぶつかることで、骨や軟骨に炎症や障害が起こります。
小児期では骨端線(成長軟骨)が未成熟なため、繰り返しの衝突刺激によって骨端線離開や**骨棘形成(骨のとげ)が生じる可能性があります。また、肘頭の疲労骨折や滑膜炎(関節内の炎症)**が起こることもあります。
⸻
【主な症状】
• 投球後や投球中の肘の後方の痛み
• 肘を完全に伸ばすと痛みが出る(伸展痛)
• 投球時の肘の違和感、力の抜ける感覚
• 肘伸展時の「詰まり感」や「引っかかり感」
痛みを我慢して投げ続けると、骨の変形や骨片の遊離(関節ねずみ)など、長期的な障害につながる危険があります。
⸻
【リハビリ治療】
後方型野球肘では、**保存療法(リハビリ)**が基本です。損傷の程度に応じて、以下のような段階的治療を行います。
① 急性期(炎症コントロール期)
• 投球の中止:投球や打撃をストップし、安静を保ちます。
• アイシング・消炎処置:痛みや腫れを抑えるため、1日数回の冷却を行います。
• 痛みが強い場合は医師の判断で固定や投薬が行われることもあります。
② 回復期(可動域・筋力回復期)
• 肘関節の柔軟性回復:伸展可動域の改善を目指し、ストレッチや関節モビライゼーションを実施します。
• 肩関節・体幹・股関節の連動性改善:フォーム不良により肘への負荷が増していることが多いため、投球全体の連動性を見直します。
• 筋力トレーニング:上肢(特に前腕伸筋群)、肩甲帯、体幹の筋力強化を図ります。フォーム安定のために下肢の強化も有効です。
③ 復帰期(投球動作再開期)
• 段階的な投球再開:医師や理学療法士の指導のもと、キャッチボール→遠投→ブルペンと徐々に負荷を上げていきます。
• フォーム修正:肘の伸展過多や過度な背屈動作(反らせすぎ)を防ぐフォームを習得します。
• 再発予防トレーニング:肩・股関節の可動性向上や、肩甲骨の安定性を保つエクササイズを継続します。
⸻
【予防と管理のポイント】
• 過投防止:学年に応じた投球数制限を守る(小学生なら1日50球以内が目安)
• フォーム指導の徹底:特に「手投げ」や「肘下がりフォーム」は肘後方に強いストレスがかかるため、改善が必要
• 柔軟性チェック:特に肩・肘・股関節の可動域が狭いとフォームが崩れ、肘への負担が増えます
• 定期的なメディカルチェック:違和感や初期症状の段階で専門家に相談することが、重症化を防ぐカギです
⸻
【まとめ】
後方型野球肘は、成長期の子どもが肘を強く伸ばしながら投げることで発生する、見落とされがちな障害です。肘の後方に違和感や痛みが出た時点で、早期に投球を中止し、整形外科やスポーツクリニックでの診察を受けることが重要です。