梨状筋症候群のリハビリ
梨状筋症候群(piriformis syndrome)は、坐骨神経が骨盤出口部で梨状筋と交差する部位において圧迫や摩擦を受けることで発症する症候群です。坐骨神経痛様の症状を呈しますが、腰椎椎間板ヘルニアなどの脊椎由来疾患と鑑別することが重要です。以下では病態と運動器リハビリテーションについて解説します。
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病態
梨状筋は仙骨前面から起始し、大腿骨大転子に付着する外旋筋であり、股関節の外旋や外転に関与します。通常、坐骨神経は梨状筋の下を走行しますが、解剖学的には神経が筋の貫通部や分岐部を通過する例もあります。そのため、筋の緊張や肥厚、繰り返す外傷、長時間の座位姿勢、スポーツ活動による過負荷などにより、神経が圧迫・刺激を受けやすくなります。
臨床的には、臀部深部の疼痛や坐骨神経痛様の放散痛が特徴であり、長時間の座位や階段昇降、股関節内旋・外旋動作で悪化します。圧痛点は梨状筋部に一致し、ストレッチテスト(FAIRテストなど)で症状が誘発されることが多いです。腰椎由来の神経症状を伴わない点が診断の手がかりになります。
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運動器リハビリテーション
梨状筋症候群のリハビリは、坐骨神経への圧迫を軽減し、筋緊張を緩和することが中心となります。以下の段階的なアプローチが有効です。
1. 疼痛コントロールと安静指導
発症早期は過度な運動や長時間の座位を避け、温熱療法や軽度マッサージで血流改善を図ります。
2. ストレッチング
梨状筋をターゲットにしたストレッチが最も基本的な方法です。仰臥位で膝を反対側肩方向に引き寄せるストレッチや、座位で患側の足首を反対膝に乗せて体幹を前屈させる方法が代表的です。1回20〜30秒を数回繰り返すことが推奨されます。
3. 筋力強化
臀部深層筋群(中殿筋、大殿筋)を強化することで骨盤・股関節の安定性を高め、梨状筋への負担を軽減できます。クラムシェル運動、ブリッジ運動、四つ這いでの股関節外転運動などが効果的です。
4. 姿勢・動作指導
長時間の不良姿勢(特に脚を組む座位や骨盤後傾姿勢)は梨状筋の緊張を助長します。正しい座位姿勢や、こまめな立ち上がり・歩行を指導します。スポーツ選手ではランニングフォームやストライドの調整も有用です。
5. 全身的アプローチ
梨状筋単独ではなく、腰椎や股関節周囲の柔軟性、下肢アライメントも考慮し、ハムストリングスや腸腰筋のストレッチも並行して行います。
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まとめ
梨状筋症候群は坐骨神経が梨状筋により圧迫されることで臀部から下肢に痛みを生じる疾患です。診断には腰椎疾患との鑑別が重要であり、治療はストレッチや筋力強化を中心とした運動器リハビリが有効です。患者ごとの生活習慣や姿勢を修正し、骨盤・股関節全体の機能改善を図ることで再発予防につながります。