尺骨神経麻痺とは
◆尺骨神経麻痺(しゃっこつしんけいまひ)とは
尺骨神経は、肘の内側(いわゆる“肘をぶつけてジーンとする部分”)から前腕を通り、小指側の筋肉や感覚を支配している神経です。
この神経が障害されると、小指〜薬指のしびれ、つまむ力や握力の低下、小指側の筋肉の萎縮(手内筋萎縮) が見られるようになります。
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【主な症状】
• 小指〜薬指のしびれ・感覚低下
• 小指が外に逃げる(開指変形)
• 指を開く・閉じる動作がしにくい
• 細かい作業が苦手になる(ボタン留め・箸操作など)
• 手内筋の萎縮(骨間筋、虫様筋のやせ)
• 進行すると「かぎ爪変形(クローハンド)」が出現することもある
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【原因】
尺骨神経は走行上、圧迫を受けやすい位置にあります。
●肘部管症候群(最も多い)
肘の内側の溝(尺骨神経溝)で圧迫される状態。
・肘の曲げすぎ
・長時間の肘つき姿勢
・加齢変化
・変形性関節症
などが関与。
●ギオン管症候群
手首の小指側(豆状骨付近)での圧迫。
・自転車やバイクのハンドル
・工具作業
・スポーツ
で起こりやすい。
●外傷・骨折後の神経損傷
・肘の骨折
・手関節の損傷
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◆リハビリ治療(理学療法)
尺骨神経麻痺のリハビリは、神経の回復促進、筋力維持、変形予防 を目的に段階的に行います。
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① 負荷の調整・安静
• 肘を強く曲げた姿勢(寝るときの肘曲げ姿勢)を避ける
• 長時間の肘つき作業を中止
• 必要に応じて 夜間スプリント(肘軽度伸展位で固定) を使用
• ハンドル操作など手首小指側の圧迫を控える
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② 可動域訓練(ROM訓練)
• 肘の軽い屈伸運動
• 手指の屈伸運動
• 小指・薬指の開閉運動
→関節が硬くならないよう毎日少量ずつ継続。
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③ 筋力トレーニング(段階的)
特に手内筋の強化が重要です。
• 指開閉運動の強化
・ゴムバンドを指にかけて開く運動
• ピンチ動作強化
・指先でのつまみ動作(洗濯バサミ、スポンジつまみ)
• 手内筋トレーニング
・指を1本ずつ広げる・閉じる
・テーブル上での指のリフトアップ運動
※疲労しやすいため、短時間・少ない回数から開始します。
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④ 神経滑走(ニューロダイナミクス)
• 尺骨神経に沿った軽い滑走運動で、神経周囲の癒着を防ぎ、血流改善を促します。
• 反動をつけず、痛みの出ない範囲で実施。理学療法士の指導下で行うと安全です。
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⑤ 感覚再教育
• しびれ・感覚低下がある場合、スポンジ・ブラシ・布などの軽い刺激を使い、感覚の再学習を促します。
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⑥ 日常生活指導
• 肘の曲げすぎを避け、デスクワーク中は肘当てや姿勢調整
• スマホ使用時に肘を長時間曲げ続けない
• 自転車・工具作業の時間を調整
• 夜間は肘を伸ばし気味に保つ
• 痛みやしびれ増悪時は早めに休む
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◆予後について
軽度の圧迫性麻痺では 数週間〜数ヶ月で改善 することが多いですが、
症状が進んでいる場合や筋萎縮が強い場合は回復に時間がかかることがあります。