下垂足
下垂足とは、足関節を背屈(足先を上に持ち上げる動き)する筋力が低下し、歩行時に足先が下がってしまう状態を指します。主に前脛骨筋や長趾伸筋など、足首を引き上げる筋群の機能低下が原因で生じます。歩行では足先が床に引っかかりやすく、いわゆる「すり足歩行」となり、転倒リスクが高まる点が大きな問題です。
原因は多岐にわたり、最も多いのは総腓骨神経麻痺です。長時間のあぐら姿勢や正座、ギプス固定、やせ型の方での圧迫などが誘因になります。また、腰椎椎間板ヘルニアによるL5神経根障害、脳卒中後の片麻痺、糖尿病性末梢神経障害、外傷などでも下垂足は発生します。原因を特定し、神経障害の程度を把握することが治療方針を決めるうえで重要です。
リハビリ治療の中心は、筋力回復・可動域改善・歩行の安定化を図ることです。まず、背屈筋群の筋力トレーニング(徒手抵抗運動・チューブトレーニング)が基本となります。また、足関節の拘縮予防として、足関節の他動・自動可動域訓練を定期的に行い、足首が下に固まらないようにします。神経が回復するまでの間は、周囲筋を補強するトレーニングや感覚刺激も重要です。
歩行訓練では、転倒防止のために足首を保持する AFO(足継手付き装具・シューホーン型装具) を用いることが多く、足先の引っかかりを防ぎ、安全に歩けるようになります。とくに神経回復が見込まれる初期は、装具の併用が転倒予防に極めて有効です。
電気刺激療法(NMES)も下垂足に対して有用で、麻痺した前脛骨筋に刺激を加えることで筋活動を促し、神経・筋の再教育を行います。神経損傷の程度が軽度であれば、数週間〜数か月で改善することもありますが、高度損傷では長期的なリハビリが必要になります。
下垂足の治療は原因診断と早期介入が鍵です。適切なリハビリと装具の使用により、歩行の安全性と生活の質を大きく改善することができます。