石灰沈着性腱板炎は、肩関節周囲の腱板(肩を動かす筋肉群)にリン酸カルシウムの結晶が沈着することで、急激な痛みや炎症を引き起こす疾患です。特に40~50代の女性に多く見られますが、原因は完全には解明されていません。治療法は、症状の程度や患者の状態によって異なります。
石灰沈着性腱板炎の症状
1.急性発症の激しい肩の痛み
•突然、肩に強い痛みが生じ、夜間痛が顕著です。
•痛みにより肩の動きが大幅に制限されることがあります。
2.慢性的な肩の違和感や痛み
•石灰が小さい場合や吸収過程にある場合、慢性的な肩の痛みや違和感が生じます。
3.腫れや発熱
•肩周囲の腫れや局所的な熱感がみられることがあります。
石灰沈着性腱板炎の診断
診断には以下の方法が用いられます:
1.問診と視診
痛みの程度や発症時期、肩の動きの範囲を確認します。
2.画像診断
•X線検査:石灰の位置や大きさが確認できます。
•超音波検査:石灰の状態や炎症の有無を詳細に確認できます。
•MRI:腱板や周囲組織の炎症の程度を把握します。
治療法
石灰沈着性腱板炎の治療は、症状の急性期か慢性期かによって異なります。
1. 急性期の治療
痛みと炎症を抑えることが主な目的です。
1.安静
肩を安静に保ち、炎症を悪化させないようにします。
2.鎮痛薬の使用
•非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を内服または外用し、痛みと炎症を軽減します。
•強い痛みが続く場合は、ステロイド注射を肩関節に行うこともあります。
3.アイシング
炎症を抑えるために、冷却を行います(1回20分程度)。
4.吸引療法(バースト療法)
超音波ガイド下で石灰を吸引・洗浄する方法です。症状を急速に改善させることが期待されます。
2. 慢性期の治療
慢性的な痛みや石灰の吸収を促進するための治療です。
1.理学療法
•温熱療法や電気療法で血行を改善し、痛みを軽減します。
•ストレッチや筋力トレーニングを行い、肩の可動域を回復させます。
2.体外衝撃波療法(ESWT)
衝撃波を肩に当て、石灰を破砕・吸収させる治療法です。非侵襲的であり、多くの場合外来で行われます。
3.経過観察
石灰は自然に吸収されることが多いため、軽症例では痛みを管理しながら経過を観察します。
3. 手術療法
保存療法で効果が得られない場合や石灰が大きい場合に検討されます。
1.関節鏡下手術
小さな切開を行い、関節鏡を使って石灰を除去する手術です。回復が早いのが特徴です。
2.開放手術
非常に稀なケースで、広範囲な石灰の沈着がある場合に行われます。
日常生活での注意点
1.肩の使い方に注意
痛みがある間は無理に肩を動かさず、安静を保つことが重要です。
2.適切な運動
痛みが和らいだ後は、理学療法士の指導のもとで肩のリハビリを行い、関節の柔軟性と筋力を回復させます。
3.ストレス管理
ストレスや生活習慣の乱れは、血行不良や炎症を悪化させる可能性があります。
4.適切な姿勢
姿勢の改善やデスクワーク中の休憩を取り入れ、肩への負担を減らします。
石灰沈着性腱板炎の予後
石灰沈着性腱板炎は、適切な治療を行えば多くの場合で症状が改善します。ただし、再発のリスクもあるため、治療後も肩のケアを続けることが重要です。特に痛みが軽減した後のリハビリや生活習慣の見直しが、再発予防につながります。
おわりに
石灰沈着性腱板炎は痛みが強く、生活の質(QOL)に大きな影響を与える疾患ですが、現代の医療では多くの効果的な治療法が存在します。早期診断と適切な治療を受けることで、症状の軽減と再発予防が可能です。肩の痛みが長引く場合は、早めに医療機関を受診することをおすすめします。