大腿骨頸部骨折のリハビリ治療
大腿骨頸部骨折は、高齢者に多くみられる骨折で、特に骨粗鬆症の人に起こりやすいです。股関節の痛みや歩行障害が主な症状で、放置すると寝たきりのリスクが高まります。治療は通常、手術(人工骨頭置換術や骨接合術)が行われ、その後のリハビリが日常生活への復帰において重要な役割を果たします。リハビリ治療では、筋力や関節の可動域を回復し、再び自立した生活を送ることを目指します。
1. リハビリ治療の目的
•痛みの軽減と炎症の管理
•股関節の可動域(ROM)の回復
•筋力の強化とバランス能力の向上
•歩行機能の改善と日常生活動作(ADL)の再獲得
•寝たきりや再骨折の予防
2. リハビリ治療の流れ
① 急性期(手術直後~1週間)
この時期は、手術の影響を軽減し、早期離床を目指します。
•早期離床
•手術翌日からベッド上での軽い運動(深呼吸や手足の動き)を始めます。
•座位の保持や車椅子への移動訓練を行い、徐々に身体を動かす習慣をつけます。
•関節可動域訓練
•痛みが許容範囲であれば、股関節や膝関節の軽い運動を開始します。
•足首の回転運動や足指の運動を行い、血流を促進します。
•筋力維持訓練
•大腿四頭筋やハムストリングスの等尺性運動(筋肉を動かさずに力を入れる運動)を行い、筋力低下を防ぎます。
② 回復期(術後1週間~数ヶ月)
この段階では、歩行訓練や筋力強化が主な目標となります。
•部分荷重歩行の開始
•松葉杖や歩行器を使用し、体重を徐々に患部にかけていきます。
•理学療法士の指導の下、正しい歩行パターンを習得します。
•筋力強化運動
•股関節周囲や下肢全体の筋肉を強化する運動を行います。
•レッグエクステンション: 膝を伸ばす運動で大腿四頭筋を鍛える。
•ブリッジ運動: 仰向けで膝を立て、腰を持ち上げる運動で体幹と下肢を鍛える。
•バランス訓練
•片足立ちやバランスボールを用いた訓練を行い、転倒防止能力を高めます。
•関節可動域の回復
•股関節の屈曲、伸展、外転運動を行い、柔軟性を取り戻します。
•痛みが軽減してきたら、水中運動などの負担が少ない方法で可動域を広げる訓練も有効です。
③ 機能回復期(術後数ヶ月~6ヶ月)
日常生活への復帰を目指し、動作の改善と筋力のさらなる強化を行います。
•全荷重歩行の再開
•補助器具を段階的に外し、完全に体重を患部にかけられるようにします。
•階段の昇降や屋外での歩行訓練を取り入れます。
•日常生活動作(ADL)訓練
•椅子からの立ち上がり、床に落ちた物を拾う動作などを練習します。
•家事や外出の動作を安全に行えるよう訓練します。
•転倒予防プログラム
•バランス能力をさらに向上させる運動や、転倒時のリスクを軽減する動作を指導します。
•屋内外の環境整備(段差や滑りやすい床の改善)も行います。
3. 物理療法の活用
•温熱療法
筋肉や関節を温めて血流を促進し、運動前に筋肉をほぐします。
•電気刺激療法(EMS)
筋力が低下した部位を刺激し、筋肉の回復をサポートします。
•超音波療法
組織の回復を促進し、痛みを軽減します。
4. 家庭でのセルフケアと注意点
•運動の継続
リハビリで学んだ運動を日常生活の中で継続し、筋力や柔軟性を維持します。
•骨の健康維持
バランスの良い食事(カルシウム、ビタミンDを含む食品)と適度な運動を取り入れます。
•転倒防止
自宅の段差や障害物を取り除き、転倒しにくい環境を整えます。
•体重管理
過度な体重増加は股関節への負担を増やすため、適切な体重を維持します。
5. 注意点
•痛みや腫れが再発した場合、または歩行や日常動作で異常を感じた場合は、速やかに医師や理学療法士に相談することが必要です。
•リハビリを無理に進めると、患部に負担がかかり、治癒が遅れる可能性があります。
まとめ
大腿骨頸部骨折のリハビリは、急性期の安静と早期離床、回復期の筋力強化、機能回復期の歩行訓練を段階的に進めることで、再び自立した生活を送ることを目指します。専門家と連携しながら無理のないペースで進めることが、長期的な機能回復と再発予防の鍵となります。