母指の付け根の痛み
第一指CM関節症の症状と治療(保存治療中心)
第一指CM関節症とは
第一指CM(手根中手)関節症は、親指の付け根(母指の手根中手関節:carpometacarpal joint, CM関節)に発生する変形性関節症(OA)です。特に中高年の女性に多く発症し、親指の使用頻度が高い人ほどリスクが高まります。
CM関節は、親指の動きを支える重要な関節であり、回旋運動を可能にする「鞍関節(saddle joint)」の構造を持ちます。このため、頻繁な動作や加齢による軟骨の摩耗によって関節症が進行しやすく、痛みや可動域の制限が生じます。
⸻
症状
第一指CM関節症の主な症状は、痛み、可動域の低下、変形の3つです。
1. 親指の付け根の痛み
• 親指の付け根(CM関節)に慢性的な痛みが生じる。
• つまみ動作(ピンチ動作)や握る動作で痛みが増強する。
• 初期は使いすぎた後に痛みが出るが、進行すると安静時でも痛むことがある。
2. 親指の動きの制限
• 親指の開きが悪くなる(母指外転制限)。
• 物をつかんだり、ボタンを留めるなどの細かい作業が困難になる。
• 症状が進むと、関節の動きが固くなり、可動域が狭くなる。
3. 親指の変形
• **「Z変形」**と呼ばれる変形が起こる。
• 母指の付け根(CM関節)が突出する。
• 第一関節(MP関節)が過伸展し、爪先が内側に曲がる形状になる。
• 進行すると、関節の安定性が失われ、力を入れにくくなる。
⸻
診断
診断は、臨床症状の確認とX線検査を中心に行います。
1. グラインドテスト(Grind Test)
• 親指をつかんで軸方向に圧を加えながら回旋させると、**痛みや軋轢音(きしみ音)**が生じる。
2. X線検査
• CM関節の軟骨がすり減り、関節裂隙の狭小化、骨棘形成、関節のズレが確認される。
• 進行すると関節の脱臼や大きな変形が見られる。
⸻
保存療法(手術をしない治療)
第一指CM関節症の治療は、保存療法(非手術治療)と手術療法に分かれます。
軽度〜中等度の場合、まずは保存療法を行い、症状の改善を目指します。
1. 安静と生活習慣の見直し
• 親指の過度な使用を避ける
• 繰り返しのつまみ動作や強い力を入れる作業を控える。
• 家事(雑巾絞り、ペットボトルの開閉、ハサミの使用)を工夫する。
• 握力を必要とする作業は手全体を使うように意識する。
• サポートグッズの活用
• 太めのペンや滑り止め付きの器具を使うことで、関節への負担を減らす。
2. 装具療法(サポーター・スプリント)
• 親指の固定装具(スプリント・サポーター)を装着し、関節の負担を軽減する。
• 親指を適度に固定し、痛みを抑える。
• 就寝時に装着すると、夜間の負担が減る。
3. 薬物療法
• 消炎鎮痛剤(NSAIDs)
• ロキソプロフェン(ロキソニン)、イブプロフェン(ブルフェン)などの内服薬。
• 湿布や外用薬(ジクロフェナク、フェルビナク)を使用することで、局所的な痛みを軽減。
• 関節内ステロイド注射
• 強い炎症がある場合、ステロイド注射を行い、即効性のある痛みの軽減を図る。
• 効果は一時的だが、数カ月程度持続することがある。
4. 物理療法
• 温熱療法
• ホットパックや温浴を用いて、関節の血流を改善し、痛みを緩和する。
• 超音波療法
• 超音波を当てることで、関節の炎症を抑え、軟部組織の回復を促す。
5. 運動療法(リハビリ)
• 関節の安定性を高める筋力トレーニング
• 母指球筋(親指の付け根の筋肉)を鍛えることで、関節の負担を減らす。
• 例:「ゴムバンドを親指にかけて外側に開く運動」など。
• 関節可動域の維持
• 親指のストレッチを行い、関節の柔軟性を維持する。
• ただし、痛みが強い場合は無理に動かさない。
⸻
保存療法で改善しない場合の選択肢
保存療法を続けても症状が進行し、日常生活に支障が出る場合は手術を考慮します。
手術には以下の方法があります。
• 関節形成術(靭帯再建術+切除術)
• 変形した関節部分を切除し、腱を用いて靭帯を再建する方法。
• 関節固定術
• 関節に骨を移植して固定する手術。
⸻
まとめ
第一指CM関節症は、親指の付け根に痛みや変形を引き起こす疾患で、特につまみ動作や握る動作で痛みが増強します。診断にはグラインドテストやX線が用いられます。
治療は保存療法が基本であり、装具療法、薬物療法、物理療法、運動療法などを組み合わせて症状を管理します。症状が改善しない場合は手術が検討されます。
日常生活の工夫や適切なケアを行うことで、痛みを軽減し、関節の機能を維持することが可能です。