疑通風 石灰沈着性関節炎の病態、治療
疑通風(石灰沈着性関節炎)の病態と治療
病態
疑通風(ぎつうふう)は、正式には**石灰沈着性関節炎(calcium pyrophosphate deposition disease, CPPD)**と呼ばれる疾患であり、関節内にピロリン酸カルシウム結晶が沈着することで炎症を引き起こします。この病態は、痛風(尿酸結晶の沈着)と類似しており、関節の急性炎症を伴うため「偽痛風」とも呼ばれます。
疑通風の発症メカニズムは完全には解明されていませんが、加齢に伴う軟骨の変性、関節内のピロリン酸濃度の上昇、マグネシウム不足、遺伝的要因、内分泌疾患(副甲状腺機能亢進症、ヘモクロマトーシスなど)が関与していると考えられています。特に、高齢者に多く発症し、膝関節が最も影響を受けやすいとされていますが、肩、肘、手首、股関節、足関節などにも発症することがあります。
症状
疑通風の主な症状は、急性関節炎です。特に以下のような特徴があります。
1. 急性発作
• 突然の関節の腫れ、発赤、激しい痛みを伴う。
• 痛風と異なり、足の親指(母趾)よりも膝関節や手首などの大関節に多く発生する。
• 48時間以内に症状がピークに達し、1〜3週間で自然軽快することが多い。
2. 慢性関節炎
• 繰り返し発作を起こすことで関節の変形や機能障害を伴う。
• 変形性関節症(OA)と合併しやすく、長期的に関節の運動制限や痛みが続くこともある。
診断
診断には、関節液の分析や画像検査が重要です。
• 関節液検査
• 関節液を顕微鏡で観察し、偏光顕微鏡でピロリン酸カルシウム結晶を確認する。
• 痛風の尿酸結晶とは異なり、「弱い正反偏光」を示す。
• X線・CT・MRI
• X線では、関節軟骨や靭帯の石灰化が認められることがある。
• CTやMRIでは、関節内の石灰沈着や炎症の程度を詳細に評価できる。
• 血液検査
• 尿酸値は通常正常であり、痛風との鑑別に役立つ。
• 副甲状腺ホルモンや鉄代謝異常のスクリーニングも行うことがある。
治療
現在、疑通風に対する特異的な治療法はなく、主に対症療法が中心となります。
1. 急性発作の治療
• NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)
• 第一選択薬。インドメタシン、ナプロキセン、ジクロフェナクなどを使用。
• コルヒチン
• 痛風と同様に効果があるが、消化器症状(下痢、嘔吐など)の副作用に注意。
• ステロイド
• NSAIDsが使用できない場合や重症例に使用。経口または関節内注射を行う。
2. 慢性期の管理
• 関節リハビリ
• 関節可動域を保ち、筋力低下を防ぐための理学療法を行う。
• 基礎疾患の治療
• 副甲状腺機能亢進症、ヘモクロマトーシス、甲状腺機能低下症などの治療を行うことで症状の軽減が期待できる。
3. 外科的治療
• 重度の関節破壊や機能障害がある場合、関節鏡手術や人工関節置換術を検討する。
予後と生活管理
疑通風は、命に関わる疾患ではないが、慢性化すると関節の機能障害を引き起こす可能性があるため、適切な管理が重要です。発作の予防には以下の生活習慣が推奨されます。
• 関節への負担を減らす
• 適度な運動を行い、体重管理をする。
• バランスの良い食事
• カルシウムやマグネシウムを適切に摂取する。
• 脱水を避ける
• 水分摂取を心がけ、結晶の沈着を防ぐ。
まとめ
疑通風(石灰沈着性関節炎)は、ピロリン酸カルシウム結晶の沈着によって急性の関節炎を引き起こす疾患であり、痛風と類似した症状を呈します。診断には関節液検査が有用であり、NSAIDsやステロイドによる対症療法が中心となります。慢性化を防ぐためには、基礎疾患の治療や生活習慣の見直しが重要です。